・弊社論文が土木学会論文集に掲載されました!

弊社の論文が公益社団法人土木学会の土木学会論文集C(地圏工学)に掲載されました。

■岩田智明 “現状斜面に対応する新しい土圧計算式” 
 土木学会論文集C(地圏工学), Vol. 73, No. 2, 195-211, 2017.


概要は以下のとおりです。ご興味をお持ちいただけましたら、土木学会論文集をご購読ください。

 擁壁には、土による、土圧という見えない力が生じます。当論文ではその土圧に関する以下の5項目の成果を挙げています。
 ①クーロン式を粘着力が考慮できる計算式への拡張に成功
 ②クーロン式を擁壁背面の地形が複雑な地表面形状を呈する場合に対応できる計算式への拡張に成功
  (①、②の成果により、試行くさび法に代わり得る新たな数式を導出。)
 ③改良試行くさび法に代わり得る、2面直線すべり式の収束計算法の提案
  (ただし、かかと版の長い片持ちばり式擁壁に限る。)
 ④地震時ランキン土圧の計算式の簡略化とすべり角の計算式の拡張に成功
 ⑤重力式擁壁に作用する土圧は、擁壁背面に想定するすべり形態によって変化することを提唱
  (現在の擁壁の設計法の問題点を指摘。)


1.土圧計算式であるクーロン式を粘着力が考慮できる計算式への拡張に成功(上記①に関する記述)
 電磁気学の分野においても名声を馳せるクーロン(Charles-Augustin de Coulomb)が37歳の時(1773年)、論文(※1参照)において土圧理論を発表しました。
 現在において、擁壁に作用する土圧は、クーロンの土圧理論を基本として計算されています。
 しかし、240年の間、粘着力(砂のようなサラサラした土ではなく、粘土のような粘りのある土に作用する付着力)を考慮した計算式が未解明のままでした。
当論文では、これを解明し、クーロン式を粘着力が考慮できる計算式への拡張に成功しました。
 ※1【Essais sur une application des règles de maximis et minimis à quelques problèmes de statique relatifs à l'architecture】


2.地震時ランキン土圧の計算式の簡略化とすべり角の計算式の拡張に成功(上記③に関する記述
 半無限斜面における地中内に生じる土圧はランキン土圧によって計算されます。(詳細は論文内をご確認ください。)また、一般的なランキン土圧計算式(地震力を考慮しない計算式)は、多くの土木技術者に知られています。一方、慣性力を考慮するランキン土圧の計算式は、複雑な計算式であるがゆえ、一般化しておらず一部の有知識者しかその存在を知らないのが現状です。さらに、過去(1970年頃)にこの計算式を掲載した専門書はありましたが、現在で、この計算式を掲載する専門書は見当たりませんでした。
当論文では、この重要計算式(地震時ランキン土圧の計算式)の簡略化に成功しています。
また、半無限斜面に重力と慣性力が作用する地中内の極限応力状態(ランキン場とも呼ばれる応力状態)でのすべり角の計算式を地震時モールの応力円を用いて導き出すことに成功しています。


3.擁壁背面の地形が複雑な地表面形状を呈する場合に対応できる計算式を発明
(上記②および④に関する記述)
 これまで、擁壁の背面の地形が複雑な地表面形状となっている場合(例えば、地表面が現状斜面のように一様な勾配となっていない場合)に土圧を計算できる計算式は存在しませんでした。
 当論文では、クーロンの土圧理論を用いて当問題点を解決する計算式を導いています。
 擁壁背面側に発生するすべり形態には岩田が呼称する『1面直線すべり』と『2面直線すべり』があります。(詳細は論文内をご確認ください。)
『1面直線すべり』のすべり形態(例えば、重力式擁壁の背面に発生するすべり形態)では、従来より土圧計算に用いられてきた試行くさび法を利用することなく、本発明の計算式で直接、土圧を計算することが可能となります。
『2面直線すべり』のすべり形態(例えば、片持ちばり式擁壁の背面に発生するすべり形態)では、収束計算アルゴリズムを用いて土圧計算することで、従来の計算法(改良試行くさび法)に比べて迅速、かつ高精度な解が算出することが可能となりました。(ただし、2つのすべり面が地表面と交差する場合に限ります。)



4.重力式擁壁に作用する土圧は想定するすべり形態によって変化することを提唱(上記⑤に関する記述)
 現在の重力式擁壁に作用する土圧は、前述の『1面直線すべり』のすべり形態によって計算されています。しかし、擁壁の背面勾配が極めて緩勾配となる場合において『1面直線すべり』は発生せず、『2面直線すべり』が発生することは明らかです。
 当論文では、『1面直線すべり』から『2面直線すべり』のすべり形態に変異する限界点を理論的に説明し、擁壁背面に発生するすべり形態によって土圧を評価することを提案しています。

2017年05月20日